20.2011
『ウィリアム・ブレイク版画展』 虎と恋人たちのつむじ風
本日、国立西洋美術館へ行きました。
お目当ては、画家、詩人、そして神秘主義者であるウィリアム・ブレイク(1757-1827)の版画展です。
常設展の観覧券、また同時開催されているゴヤ展の観覧券があれば入ることができます。

ウィリアム・ブレイクをはじめて知ったのは、10代の頃、ダンテの『神曲』が収められた古典文学全集で、次の口絵を見つけたのがきっかけです。

『恋人たちのつむじ風、パオロとフランチェスカ』と題されたこの絵には、愛欲に耽ったものたちが永遠の暴風に捲られる『神曲』地獄篇第五歌の情景が描かれています。
ほとんど官能そのもののような絵です。
うねり、よじれる男女の集合体、その裸体のフォルム、さらに暖色と寒色が混ざり合った色彩によって、「快楽」は同時に「苦悶」でもあることが表されています。
中央右に倒れ伏しているのは主人公ダンテ。
不実な関係が発覚して殺されたパオロとフランチェスカの話しを聞き、哀憐の情に耐えかねて気絶しています。
「苦しい時に、幸せだった時を想うことほど、辛いことはない」と悲恋を語り終えたパオロとフランチェスカは、倒れたダンテから立ち昇るように寄り添っています。
その傍に立つ導師ヴィルジリオの頭上には「男女の誠実に昇華された愛」が象徴として輝き、地獄の只中に浄化作用をもたらしています。
今回の展覧会では、同じ絵の版画もありました。

『神曲』のシリーズを版画化している最中、ブレイクはこの世を去ります。
当時の流行からかけ離れていたため、生前ほとんど評価されませんでしたが、己のスタイルを信じ抜いたブレイク。
死後半世紀以上経過し、象徴主義が台頭するようになってはじめて、その高度な象徴性、神秘性が評価されたのです。
ブレイクの詩人としての側面に触れるために、ここに彼の『虎』という詩の一節を載せておきます。
SF作家アルフレッド・ベスターの傑作『虎よ、虎よ!』のエピグラフにも用いられていて、はじめて読んだとき衝撃を受けた覚えがあります。
こんな言葉が許されるなら、あまりに「かっこよすぎる」詩だったのです。
『虎』
虎よ! 虎よ! ぬばたまの
夜の森に燦爛と燃え
そもいかなる不死の手 はたは眼の
作りしや、汝がゆゆしき均整を
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ほとんど官能そのもののような絵です。
うねり、よじれる男女の集合体、その裸体のフォルム、さらに暖色と寒色が混ざり合った色彩によって、「快楽」は同時に「苦悶」でもあることが表されています。
中央右に倒れ伏しているのは主人公ダンテ。
不実な関係が発覚して殺されたパオロとフランチェスカの話しを聞き、哀憐の情に耐えかねて気絶しています。
「苦しい時に、幸せだった時を想うことほど、辛いことはない」と悲恋を語り終えたパオロとフランチェスカは、倒れたダンテから立ち昇るように寄り添っています。
その傍に立つ導師ヴィルジリオの頭上には「男女の誠実に昇華された愛」が象徴として輝き、地獄の只中に浄化作用をもたらしています。
今回の展覧会では、同じ絵の版画もありました。

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