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13.2011

異文化を丸呑みする「カタカナ」

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外国人にとって、もっとも習熟しにくい言語のひとつに日本語があげられる。
よしんば喋ることができたとしても、日本人と同じレベルで筆記することは至難の業である。
客観的に見てもそう感じる。
自分が外国人であれば、日本語の羅列はあまりに複雑怪奇で、文章を習う気は失せるだろう。
「ひらがな」「漢字」「カタカナ」と三つの文字体系で成り立っていることが、その複雑性を最たるものにしている。

しかしこの複雑性を持つがゆえに、今日の日本の繁栄が築かれたといっても過言ではない。
天然資源の乏しい日本が技術大国として名を馳せる要因になったのも、この「日本語の複雑性」によって、柔軟に、巧みに異文化を吸収したことを抜きにしては考えられないのだ。
とくに注目するべきは「カタカナ」の効用だ。

オスカー・ワイルド
トーマス・マン
ヴィクトル・ユゴー
ガルシア=マルケス

上記に挙げた作家は、それぞれ国が異なる。
しかし、日本語におきかえると、すべて「カタカナ表記」という共通点を持つのだ。
「外国」を「カタカナ」という文字体系に組込む、もっと言ってしまえば「放り込む」ことで、異文化を易々と自国の文化圏に吸収することができる。

逆にアルファベットのような単一の文字体系であれば、ある外国語を自国のものにするためには、すでに確立された英語の中に引き入れなければならない。
つまり自国で醸成した「アイデンティティ」との正面衝突は避けられないのだ。
この衝突によってタイムラグが生じる。
異文化を吟味する慎重さは、古の美を保持するにあたって不可欠な姿勢であるが、ある種の排他的な、西欧が頑なに守りつづける建築や石畳に通じる、現代性との対立を少なからず感じさせる。
だが一度自国内に引き入れた言葉は、もはや他国の言葉ではなく、自国の言語として扱われるのも特徴だ。

日本はともすると、見境なく異文化を吸収しているような印象を与えるが、実は違う。
日本ほど「自国」と「外国」が截然と区別されている国は他にない。
それは決して外国のものが「漢字」や「ひらがな」として吸収されないことが証明している。
柔軟に、ほとんど貪婪と言っていいほど他国の文化を吸収する日本人の内側には、実は決してぶれることのない芯棒が埋め込まれているのだ。
しなやかなものほど、その芯は固い。

良し悪しは別として、日本人こそは、世界に稀に見る、器用で、したたかな民族であることは間違いないだろう。



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