24.2013
『ブレイクダンス・ジーザス』 踊るキリストを生んだ都市

コスモ・サースン(Cosmo Sarson)近影
一年もあっという間。
もうクリスマスが来てしまいました。
本日はキリストの誕生日にちなんで、まだ国内であまり知られていない一人のアーティストを紹介したいと思います。
彼の名はコスモ・サースン(Cosmo Sarson)。
英国で活躍するグラフティ・アーティストです。
「グラフティ」とは、スプレーやフェルトペンなどを用いて、主に街中の壁などに描く落書きであり、ストリートカルチャーの一種です。
グラフティと言えば、2010年に映画にもなったバンクシー(Banksy)が有名ですが、コスモ・サースンも「新たなバンクシー」として近年注目を集めるようになりました。
サースンは、ロンドンのByam Shaw Schoolでファインアートを学び、卒業制作展ではポール・スミスがスポンサーにつくなど、早くから成功を収めます。
そんな彼を一躍有名にしたのが、8.5メートルの大作『ブレイクダンシング・ジーザス(Breakdancing Jesus)』。

photo source:Mirror Online

ブリストルのストークス・クロフトにある食堂の壁に描かれた、ブレイクダンスをする巨大なイエス・キリスト。
背景にはふんだんに金が用いられ、その総量は1キロにおよびます(伝統的なイコンも背景は金で装飾される)。
この作品の腹案は、2004年にローマ教皇の前で若いダンスグループがブレイクダンスを披露したというニュースを見たときから持っていたようです。
「キリストが現代に蘇った場合、どのように現代文化と交信するのか問題提起している」として審査員から高い評価を受け、複数の候補者の中から壁画を描く権利を勝ち取りました。
こうした作品に対して、キリスト教会側の反応はどうかと言うと、意外にもかなり高評価のようです。
クリフトンの教区の広報担当者は、英国でも少なからず宗教離れが進む中、若い人への教会のアピールという点で、人々の注目を集めることに期待しているとのこと。
ちなみに、この建物の反対側にはバンクシーのグラフティが描かれています。

『ブレイクダンシング・ジーザス(Breakdancing Jesus)』シリーズ



左:『ブレイクダンシング・ジーザス』のアイデアを与えた記事。
右:『Screaming Pope』(英国人画家フランシス・ベーコンの影響が見て取れる)
ブリストルは英国のイングランド西部に位置する港湾都市で、10世紀から商業港として栄え、18世紀頃には西インド諸島との貿易、金属工業などの新産業、そして黒人奴隷などを扱った大西洋三角貿易の拠点の一つとして繁栄を築いてきた歴史を持ちます。
あらゆる貿易都市がそうであるように、ブリストルにも多様性豊かな環境が作られました。
それは宗教の次元にも影響を及ぼし、他宗教に寛容かつ信仰議論の活発な都市を形成します。
こうしたマルチ信仰に寛容な都市で、しかも市長が認可したパブリックアート(公共芸術)として、『ブレイクダンシング・ジーザス』のようなストリートに根差した作品が誕生したのは非常に興味深い点です。
アートというものが、高低問わず、いかに人々の根源的な地点から発生するかが分かります。
文明の誕生と同時に神話を携えていた人類。
あらゆる文化(芸術)は、「宗教の次元」と「文明の次元」の間の“子供”として生誕するのかもしれません。
それを思うと、クリスチャンでもない日本人がクリスマスを祝うことも、また別の宗教的・文明的な要因があると考えられます。
いやはや、話は尽きませんね。
今後も精力的に情報を皆様とシェアしたいと思います。
Happy X'mas!

『Age Concern』2011

『Riots』2011

『Interactive Mural』
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